第4回 死神に何を問うか?

 【思考遊戯】の醍醐味は、自ら問いを立てるところにあります。

 [誰に][何を][どう]問いかけるか、独自の問題提起から始めなければ、面白さや楽しさは半減します。

 と言って、「存在とは何か?」「幸福とは何か?」、といった、昨今流行りの哲学的手法による問いかけは、遊戯になじみません。

 

 アチョー!

 

 たとえば、『死神』という落語があります。もう死ぬしかない、と思っている男の前に現れた死神が、重篤の患者の生死の見分け方と、生きる可能性のある患者を快癒させる呪文を伝授します。おかげで、男は高名な医者になりましたが、死神の言いつけを破って死に瀕した患者の命を救ったがために、自らの命を縮めてしまうという噺です。

 この噺から、死神に、

「なぜ、その男を生かそうとしたのか?」

 と問うと、果たして、どんな答が返ってくるでしょうか?

 あるいは、他に、死神に、何を問うことができるでしょうか?

 

  アチョー!

 

 こんな話はどうでしょう?

 

 寝たきりのバァさんが、

「そろそろお迎えが来るようだ」

 と言い始めて三日目の夜だった。

 バァさんに寝返りを打たせてやろうとしたジィさんの傍に、妙な影がうずくまっている。

 目を凝らしてよく見ようとすると、

「死神だよ」

 と、それが言葉を発したとたん、闇の中にその姿が浮かび上がった。

 ジィさんは、恐怖も不思議も覚えないまま、

「ああ、お迎えか」

 そう口にすると、

「一つだけ、わしに問え。問いによっては、命を長らえてやろう」

 と、それは薄く笑ったようだった。

「面白いことを言うな。どうせなら、バァさんを一人で歩けるようにしてもらえると、ありがたい」

「願いではない。問いだ」

「ああ、そうだな……」

 ジィさんはバァさんに寝返りを打たせながら、しばらく思案して、

「バァさんは、極楽に行けるんだろうな?」

「悪くない問いだ」

 死神がそう言った刹那、しかし、ジィさんの心の臓は止まった。

 最期にジィさんの耳に聞こえたのは、バァさんの安らかな寝息だった。

 

 この物語から、誰に何を問うことができるでしょうか?

 

  アチョー!

 

 さて、どんな物語から、[誰に][何を]問いますか?